業種分析:半導体

はじめに:この記事で目指すゴール

この記事は、「半導体はむずかしそう…」という壁を一枚はがしつつ、
日本の半導体セクターにどう投資で向き合うかを考えるための
ざっくり「教科書+地図」を目指します。

1.半導体とは何か:まず“役割”からつかむ

1-1. 半導体 = 電子機器の「頭脳・神経・筋肉」

「半導体(はんどうたい)」と聞くと、

  • シリコン
  • ナノメートル
  • バンドギャップ

…といった物理の話を連想してしまいがちですが、投資家目線ではまず、
「電子機器の中で、どんな役割をしているか」
を押さえる方が重要です。

ざっくり言うと、半導体チップは 電子機器の…

  • 頭脳:考える役(例:CPU・GPUなどのロジック)
  • 神経:信号を運ぶ・感じる役(例:通信チップ・センサ)
  • 筋肉:電力を大きく流す・止める役(例:パワー半導体)

だと思ってください。

スマホ・PC・自動車・データセンター・家電…
いま身の回りにある「電気で動く賢そうなもの」には、ほぼ必ず半導体がびっしり入っています。

1-2. 日常生活のどこに半導体がいる?

身近な例で見ると:

  • スマホ
    • アプリを動かす 頭脳:AP(アプリケーションプロセッサ)
    • 写真をきれいに撮る 画像処理:ISP(画像用ロジック)
    • 電池の減り方をコントロールする 電源IC:アナログ/パワー
    • 5Gの電波のやりとり:RF(無線)チップ
  • 自動車
    • エンジン・モーターの制御:マイコン(MCU)
    • ブレーキ・エアバッグ・ADAS(自動ブレーキ等):センサ+ロジック
    • モーターに電力をドンと流す:パワー半導体(MOSFET・IGBT・SiC など)
  • データセンター
    • サーバーのCPU・GPU:ロジック半導体
    • AI用のアクセラレータ:高性能ロジック+超高速メモリ(HBM など)

これら一つひとつが、市場では「どの分野の半導体が伸びるか」という形で投資テーマになります。

1-3. なぜ「戦略物資」になったのか?

世界の半導体市場は、2024年の約6,000億ドル規模から2030年に1兆ドル超まで成長すると予測されています。CAGR(年平均成長率)にするとおよそ8〜9%前後。特にサーバー・ネットワーク向けと自動車向けが最も速く伸びるとされています。

同時に、各国政府は

  • 経済安全保障(サプライチェーン防衛)
  • 軍事・防衛技術
  • AI・データセンター・EVなど次世代産業の中核

として、半導体を「戦略物資」と位置づけ、巨額の補助金や税制優遇を打ち出しています。
日本政府も、2030年に国内半導体売上を15兆円規模に増やす目標を掲げ、
2030年までに公的・民間合わせて12兆円規模の投資を呼び込む計画を出しています。

つまり投資家にとって半導体は、
「世界経済・地政学・技術トレンドがすべて交わる“ど真ん中”の産業」
であり、日本でも政府主導で「もう一度このゲームに本気で参加しよう」としているフェーズです。

2.半導体の“種類”を整理する:頭の中に地図を作る

ここが初級→準中級への一番大きなステップです。
まずは「機能」でざっくり分類してみましょう。

2-1. 大きく分けるとこんな感じ

  1. デジタル系
    • メモリ半導体(DRAM・NAND・HBM など)
      • 日本語イメージ:「ノート・倉庫」
      • 英語:Memory
    • ロジック半導体(CPU・GPU・SoC など)
      • 日本語イメージ:「考える人・司令塔」
      • 英語:Logic / Processor
  2. アナログ/ミックスドシグナル
    • 電源IC・センサ・通信チップ・RF など
    • 日本語イメージ:「現実世界とデジタルの通訳」
  3. パワー半導体
    • Si(シリコン)・SiC(炭化ケイ素)・GaN(窒化ガリウム)など
    • 日本語イメージ:「電気のバルブ・ブレーカー」
    • 高電圧・大電流を扱うのが得意

これを表にすると:

種類役割イメージ主な用途投資家の着眼点
メモリノート・倉庫スマホ、PC、サーバー、SSD供給過剰/不足、設備投資サイクル、価格(DRAMスポット)
ロジック頭脳・司令塔CPU/GPU、車載ECU、SoC技術世代(ノード)、設計力、顧客基盤、AI需要
アナログ通訳・感覚器センサ、電源IC、RF利益率の高さ、製品寿命の長さ、多品種少量
パワー電気のバルブEV、充電器、産業機器Si→SiC/GaNへの代替、EV台数、設備投資

以下、それぞれもう少しだけ深堀りします。

2-2. メモリ半導体:波が激しい「ノートと倉庫」

  • 役割
    • DRAM:短期記憶(電源を切ると消える)
    • NAND:長期保存用(SSDやフラッシュメモリ)
  • 主な最終製品
    • PC・スマホ
    • サーバー・データセンター
    • SSD・ストレージ機器
    • AI向けには高帯域メモリ(HBM)が急成長中
  • 投資家の視点
    • 典型的な「サイクル産業」。
      • 需要が強い → 各社が設備投資 → 供給過剰 → 価格崩れ → 不況 …の繰り返し。
    • DRAM/NANDのスポット価格チャートや、各社の設備投資(Capex)計画を追うのが基本。

メモリはボラティリティが高く、短期トレード向きになりがちですが、
AI向けHBMのように新しいニッチ(高付加価値ゾーン)が生まれると、そこだけ別格の成長テーマになります。

2-3. ロジック半導体:AI時代の「超・頭脳」

  • 役割
    • CPU(Central Processing Unit):汎用の計算エンジン
    • GPU(Graphics Processing Unit):もともとグラフィック向け、今はAI計算の主役
    • SoC(System on Chip):いろいろ詰め込んだ総合チップ(スマホなど)
  • 主な最終製品
    • スマホ、PC、ゲーム機
    • データセンター用サーバー
    • AIアクセラレータ、推論用チップ
    • 車載用SoC(自動運転関連)
  • 最近の特徴
    • AI向けデータセンターが爆発的に増えつつあり
      データセンター向けチップやインフラ市場は2030年にかけて大きく拡大と見られています。
  • 投資家の視点
    • 「ノード」とよばれる製造世代(5nm/3nm/2nm…)
    • どのファウンドリ(受託製造)を使っているか(TSMC・Samsung など)
    • 顧客がGAFA級のハイエンドなのか、組み込み向けなのか

ロジックは技術壁が厚く、勝者総取りに近い構造が出やすい分野です。

2-4. アナログ/ミックスドシグナル:地味だけど“おいしい”世界

  • 役割
    • 電源IC:チップに供給する電圧・電流を調整
    • センサ:温度・圧力・加速度・光 などを検知
    • RF:無線通信の送受信(スマホの基地局との通信など)
  • 主な最終製品
    • スマホ内の電源IC・RF
    • 自動車の各種センサ
    • 産業機器・FA装置の制御
  • 投資家の視点
    • プロセス世代がそこまで最先端でなくても戦えることが多い
    • 製品寿命が長く、設計変更も頻繁でないため、
      営業利益率が高く・安定しやすい傾向

アナログは「技術の積み重ね」と「顧客との関係性」がものを言う世界で、
日本企業も車載・産業向けで強みを持ちやすい領域です。

2-5. パワー半導体:EV・産業の肝になる「電気のバルブ」

  • パワー半導体とは
    • 大きな電力をオン/オフしたり、変換したりするチップ。
    • エアコンのコンプレッサ、EVのモーター、急速充電器などで活躍。
  • 材料の種類(ざっくり)
    • Si(シリコン):古くから使われている。安価・成熟。
    • SiC(炭化ケイ素):高耐圧・低損失。EV・産業用インバータで拡大中。
    • GaN(窒化ガリウム):高周波・高効率。充電器や高速通信用途など。
  • 主な用途
    • EVパワートレイン
    • 太陽光・風力など再エネの電力変換
    • 産業用モーター、エレベーター、鉄道など
  • 投資家の視点
    • EV・再エネの普及ペース
    • Si→SiC/GaN への材料シフトスピード
    • 製造能力(ウェハ径・歩留まり)と長期供給契約

パワー半導体は、自動車・エネルギー政策・脱炭素などマクロテーマと直結しているため、
中期(5〜10年)での成長期待が高い分野です。

3.半導体製造プロセス入門:工場見学のイメージで

3-1. 全体のざっくりした流れ

  • シリコンインゴットを作る
    • インゴットを薄く切って ウェハ(円盤)にする
  • 前工程(ウェハプロセス)
    • ウェハ上にトランジスタや配線を何層も作る
    • ウェハを一枚ずつチップに切り分ける(ダイシング)
  • 後工程(組立・パッケージング)
    • チップをパッケージに封入し、リードや端子を付ける
  • テスト
    • 不良品をハネて、良品だけを出荷

このうち、日本が世界的に強いのが 3. 前工程の装置・材料 と、一部の後工程装置・材料です。
日本企業は、半導体材料で世界シェア56%製造装置で約32%を握っているとされています。

3-2. 前工程:同じことを数十回くり返す“精密レイヤーゲーム”

前工程は、同じサイクルを何十回も重ねていくイメージです。

  • 薄膜形成(成膜)
    • シリコン酸化膜や絶縁膜、金属膜などをウェハ表面に薄〜くつける
    • CVD、PVD などいろんな方式がある(ここでは名前だけでOK)
  • フォトリソグラフィ(露光)
    • 「フォトレジスト(感光材、英:photoresist)」を塗る
    • 回路図が描かれたマスクを使って、光を当てる
    • 現像して、「ここを残す/削る」のパターンを作る
      ※ここで、日本の装置メーカーがフォトレジスト塗布・現像装置で世界9割シェアを持つなど、非常に強いと言われます。
  • エッチング
    • パターンに合わせて、いらない部分を削る/掘る
    • プラズマでガスを反応させて、特定のところだけ削る
  • イオン注入
    • 特定の場所に不純物を入れて、電気特性を変える
    • N型・P型などのトランジスタ構造を作る
  • CMP(化学機械研磨)
    • 表面がデコボコになったので、研磨してピカピカで平らにする
    • 次の層をキレイに作るための下地作り

この 1〜5 のサイクルを、配線を含めて何十層も積み重ねるのが前工程です。

  • 投資家目線では:
    • 各工程に対応する製造装置(成膜装置・エッチング装置・露光装置 etc)
    • それらに使われる材料(フォトレジスト、ウエハ、ガス、スラリー etc)
      がそれぞれ「一つのビジネス」として上場している、というイメージを持つと地図が描きやすくなります。

3-3. 後工程:切って、つなげて、守るフェーズ

後工程では、完成したウェハを実際に使える「チップ」に仕上げていきます。

  • ダイシング
    • ウェハをダイス(個々のチップ)に切り分ける
  • 実装(ワイヤボンディング/フリップチップなど)
    • ダイスを台座(サブストレート)に載せ、
      細い金線でつないだり、裏返して接続したりする
    • 近年は、AI向けなどでチップレットや3D積層、先端パッケージングが注目
  • パッケージング
    • 樹脂やセラミックで封止し、外部とつなぐ端子をつける
    • 熱や衝撃からチップを守る「鎧」のイメージ
  • テスト
    • 電気的にちゃんと動くか、性能が足りているかをチェック
    • 不良品をここで排除

後工程は人件費が効きやすく、
アジア各国(台湾、マレーシア、フィリピン等)に工場が多い分野です。
一方で、AI時代には先端パッケージングが差別化要因になると言われ、
日本でも先端封止・基板・テスト技術への投資が増えています。

3-4. 装置・材料ビジネスの「おいしさ」と参入障壁

  • 装置
    • 単価が高く、1台数十億円級もザラ
    • 開発・保守ノウハウが重く、参入障壁が非常に高い
    • ただし、設備投資サイクルに強く振れる(景気敏感)
  • 材料
    • 専用性が高く、一度採用されると長く使われる
    • 不純物ゼロに近いレベルの技術・品質管理が必要
    • 顧客との認定に時間がかかる分、取れてしまえば粘着性が強い

日本はまさにこの装置・材料に強く、世界シェアが高いことが、
「日本の半導体復活戦略」の土台になっています。

4.ここまでの“理解度チェック”

自分でサラッと答えられるか、心の中でチェックしてみてください。

  • Q1. メモリとロジックの役割の違いは?
    • 模範的な回答例
      • メモリ:「覚えておく役(ノート・倉庫)」
      • ロジック:「考える役(頭脳・司令塔)」
  • Q2. 前工程と後工程の違いは?
    • 模範的な回答
      • 前工程:ウエハの上にトランジスタや配線を何層も作る工程
      • 後工程:ウエハをチップに切り分けて、パッケージにして、テストして出荷する工程
  • Q3. パワー半導体は、どんな場面で威力を発揮する?
    • 模範的な回答
      • 高電圧・大電流を扱う場面、つまり
        EVの駆動・急速充電、産業機器、再エネのインバータなどで、
        電気を効率よくオン・オフする役
  • Q4. 自分が持っている/気になっている銘柄は、どのバリューチェーンにある?
    • 模範的な回答
      • その会社の事業説明を見て、
        • デバイス(メモリ?ロジック?パワー?)
        • 装置(前工程?後工程?検査?)
        • 材料(レジスト?ウエハ?ガス?)
          のどこに属するかを一言で言えるかどうかを確認すると良いです。

5.日本の半導体バリューチェーンと強み

ここからは、今までの「勉強」を日本株の地図に落とし込みます。

5-1. 日本の現在地:デバイスは細く、装置・材料は太い

  • かつてはDRAMなどデバイスでも強かった日本ですが、
    現在はメモリ・ロジックの量産ファブは海外勢(台湾・韓国・米国)の存在感が圧倒的
  • 一方で、日本企業は
    • 材料:世界シェア約56%
    • 製造装置:世界シェア約32%
      と、装置・材料で圧倒的な競争力を維持していると報告されています。

この構図が、「日本は半導体でオワコンでは?」というイメージと、
「いやいや、日本は裏方で世界を支えている」という両方の見方を生んでいます。

5-2. デバイス:車載・産業・パワーが主戦場

日本のデバイスメーカーは、

  • 車載マイコン・車載ロジック
  • 産業機器向けアナログ・パワー半導体
  • 一部のパワーデバイス(SiCなど)

といった分野で強みを持つケースが多いです。

  • 特徴
    • 先端ノード(2nm/3nm)というより、
      信頼性・長寿命・長期供給が重視される領域。
    • 自動車・工場向けはサイクルのボラティリティが比較的マイルドで、
      長期にわたる取引関係が重要。
  • 投資家の着眼点
    • 車載向け売上比率
    • 自動車メーカー・Tier1との関係
    • パワー半導体(SiC等)への投資額と生産能力

5-3. 装置:WFE・検査・計測に強い

日本は、前工程の中でも特に:

  • 成膜装置
  • エッチング装置
  • 塗布・現像装置
  • 洗浄装置
  • 検査・計測装置

などで高いシェアを持つ企業がいくつもあります。

世界の半導体製造装置市場は2023年に約1,063億ドルと、2022年からわずか1.3%の減少にとどまり、歴史的高水準にあります。
その中で、日本企業の装置販売は2024年も堅調で、2024年Q1の日本の装置販売は前年同期比約9%成長と報じられています。

  • 特徴
    • 技術参入障壁が非常に高く、新規参入はほとんど不可能に近い世界。
    • 一方で、ファブの設備投資サイクルに連動しやすい景気敏感株

5-4. 材料:フォトレジスト・ウエハ・ガス・CMPなど

日本企業は、

  • シリコンウェハ
  • フォトレジスト
  • 高純度ガス
  • CMPスラリー・ポリッシングパッド
  • パッケージ材料

などで世界中のファブを支えています。

  • 特徴
    • 品質要求が極端に厳しく、「一度認定されたらなかなか変えられない」
    • その分、長期取引・安定収益になりやすい
    • ただし、値上げ交渉力や原材料コスト次第では利益率が変動

5-5. 政府の半導体支援:Rapidus・JASM など

日本政府は、「半導体復活」を掲げて大規模な補助金を投じています。

  • JASM(TSMCの熊本工場、ソニー・デンソー・トヨタ等とのJV)
    • 2022年:第1工場に約4,760億円の補助金
    • 2024年:第2工場に最大7,320億円の追加補助金
  • Rapidus(次世代2nmロジックを狙う新会社)
    • 政府は9,200億円規模の補助を決定
    • 一方で民間出資は数十億円規模にとどまり、総投資額5兆円規模に対して「資金面のギャップ」が指摘されています。
  • その他
    • Kioxia+Western Digital のメモリ投資支援
    • Micron のDRAM投資支援(EUV導入を含む)

さらに、日本政府は2030年までに国内半導体売上を15兆円、投資額12兆円を目指すと発表しており、
これは日本の半導体を「インフラ産業」と位置づける規模感です。

5-6. バリューチェーン別の「儲かり方とブレ方」の傾向

投資家目線でざっくりまとめると:

バリューチェーン収益性(利益率)サイクル感度参入障壁日本の強み
デバイス(メモリ)中〜高非常に高い一部メモリ・車載向け
デバイス(車載・パワー)中〜高車載・パワー
装置(前工程)非常に高い成膜・塗布現像・洗浄など
装置(検査・計測)中〜高計測技術
材料中〜高レジスト・ウエハ・ガス等
後工程・パッケージ一部パッケージ材料・装置

この「どこがどれくらいブレるか」を頭の片隅に置きながら、
次に2015〜2025年の流れと、2026年以降の成長ドライバーを見ていきます。

6.2015〜2025年:何が起きてきたか(ざっくり歴史)

ここは簡潔に振り返ります。

  1. 2015〜2018:スマホ・データセンター・メモリスーパーサイクル
    • スマホの高性能化+クラウド拡大で、メモリ価格が高騰
    • 設備投資もピークへ
  2. 2019:メモリ不況
    • 供給過剰でDRAM/NAND価格が崩れ、各社の利益が急落
  3. 2020〜2021:コロナ禍で「巣ごもり需要」+サプライチェーン混乱
    • PC・タブレット・ゲーム機などが売れ、データセンター需要も加速
    • 一方で自動車向けは、一時的に減産→その後急回復
    • 半導体不足」が社会問題化
  4. 2022〜2023:調整局面とAIテーマの立ち上がり
    • スマホ・PC向けは在庫調整で弱い
    • しかしAI向けデータセンター投資が急拡大し、ハイエンドGPU・HBMなどが大きく伸びる
  5. 2024〜2025:AI+自動車+産業で次のステージへ
    • サーバー・ネットワーク向け半導体需要は2030年に向けて最大のエンド市場になると見込まれる
    • 日本の装置販売も2024年に再び伸び始め、2024年Q1で9.4%の成長予想など、
      「AI+先端パッケージング向け投資」が下支え。

日本はこの流れの中で、

  • デバイス製造では後れを取ったものの
  • 装置・材料の強みを再認識し
  • 政府主導でRapidusやTSMC熊本などを呼び込み、
  • 装置・材料+一部先端ロジックの国内回帰」を狙う戦略にシフト

してきた、というのが2015〜2025年のざっくりしたストーリーです。

7.2026年以降の成長ドライバーと投資視点

ここからは投資パート寄りの視点になります。
2026〜2030年を考えるうえでの主要ドライバーと、日本×半導体への効き方を整理します。

7-1. AI・データセンター:先端ロジック+HBM+先端パッケージング

  • マクロな絵
    • グローバル半導体市場は2030年に1兆ドル超へ
      → その中でサーバー・ネットワーク向けが最大セグメントになる見通し
    • 2030年までに半導体ファブ投資が1.5兆ドル規模に達するとの予測もあり、
      その大きな部分がAIデータセンター向けとされています。
  • バリューチェーンへの波及
    • 先端ロジック(GPU・AIアクセラレータ)
    • HBMなど高帯域メモリ(メモリ+先端パッケージ)
    • 先端パッケージング用の装置・材料
    • サーバー向け電源ICやパワー半導体、ネットワークチップ
  • 日本への“効き方”
    • 先端ロジック自体は海外勢が中心だが、
      それを支える装置・材料・一部パッケージング技術で日本企業が恩恵を受ける構図。
    • HBMや先端パッケージでは、ウェハ・レジスト・研磨材・パッケージ材料などの需要増。
  • 投資視点
    • 成長は大きいが、テーマ性が強くバリュエーションが高くなりやすい
    • 注目KPI:
      • ハイエンドGPU・AIチップメーカーのCapex計画・受注(NVIDIA、AMDなど)
      • HBM需要の伸び(30%成長予測、2030年に数十億ドル規模)
      • 先端ロジック向け露光・成膜・洗浄装置の受注

7-2. 自動車(EV・ADAS)とパワー半導体

  • マクロな絵
    • EVやハイブリッド車の普及、自動運転・ADAS機能の高度化で、
      1台あたりの半導体搭載金額はガソリン車の2〜3倍になると言われます。
    • 自動車向け半導体市場は、2030年に向けて強い成長が見込まれ、
      サーバーと並ぶ成長ドライバーとされています。
  • バリューチェーンへの波及
    • 車載マイコン・SoC
    • パワー半導体(SiC・IGBTなど)
    • センサ(イメージセンサ、ミリ波レーダー、LiDAR関連)
    • 車載向けパッケージ、基板、テスト
  • 日本への“効き方”
    • 日本の自動車サプライチェーン(完成車・Tier1)が国内外に広がっており、
      その中で車載向けデバイス・パワー半導体・センサ・アナログを供給する日本企業のポジションは強い。
    • さらに、日本製材料・装置は車載用の高信頼性プロセスでも使用される。
  • 投資視点
    • EV販売台数・各地域の環境規制の動き
    • 車載半導体メーカーの受注残・長期契約の状況
    • パワー半導体の材料シフト(Si → SiC/GaN)の進捗

7-3. 産業機器・FA・IoT・5G/6Gインフラ

  • マクロな絵
    • 世界的な省人化・自動化(FA)、エネルギー効率化ニーズ
    • 工場・ビル・インフラのスマート化
    • 5G/6G基地局や光通信ネットワークの高度化
  • バリューチェーンへの波及
    • 産業用MCU・アナログ・センサ
    • 通信インフラ向けRF・光デバイス
    • パワー半導体(高効率モーター制御など)
  • 日本への“効き方”
    • 日本メーカーが得意な産業機械・FA機器・ロボットに組み込まれる半導体
    • 通信・光デバイスや、それを製造する装置・材料
  • 投資視点
    • グローバル製造業の設備投資トレンド
    • 5G/6Gの基地局・光ファイバ投資計画
    • 各社の産業向け売上比率と、その成長率

7-4. 地政学リスクとサプライチェーン再編

  • 米中対立や台湾海峡リスクを背景に、各国は
    • 国内回帰(オンショアリング)
    • 地域分散(マルチサイト化)
      を進めています。
  • 日本政府も、TSMC熊本やRapidusなどに巨額補助金を投じ、
    • 国内にロジック・メモリ・先端パッケージの拠点を誘致
    • 工場サイバーセキュリティのガイドライン策定など、
      半導体工場を守る仕組みづくりも動いています。
  • 投資視点
    • 日本国内の新工場計画・増設計画(TSMC熊本2、Rapidus北海道など)
    • それらに伴う装置・材料のローカル調達比率
    • 他国の補助金競争との比較(米国CHIPS法、EU Chips Actなど)

8.投資スタイル別:どのバリューチェーンにどう賭けるか

ここからは、あくまで「一般論」としてのフレームです。
個別銘柄の推奨ではなく、スタイル別の考え方のヒントとして見てください。

8-1. 短期値動き重視派

  • 狙うゾーン
    • メモリデバイス(DRAM/NAND)
    • サイクル感応度の高い前工程装置
    • AI関連でニュースフローの多いロジック周辺
  • KPIの例
    • メモリ価格(DRAM/NANDスポット)
    • 半導体製造装置の受注・出荷(Book-to-Bill)
    • 大手ファウンドリの設備投資計画(Capexガイダンス)
    • AIチップ企業の受注・売上ガイダンス
  • 乗り降りの一般的なタイミング感
    • 「悲観がピークで設備投資削減→数四半期後にボトム」あたりで仕込み
    • 「設備投資が過熱・メモリ価格が高騰しすぎ」た局面では慎重に

8-2. 中期成長重視派(3〜5年)

  • 狙うゾーン
    • AI・データセンター向け装置・材料
    • パワー半導体・車載向けデバイス
    • 先端パッケージング・テスト関連
  • KPIの例
    • AIサーバー・データセンター向け半導体市場の成長率
    • EV・ハイブリッド車の販売台数
    • 各社の3〜5年中期経営計画の売上CAGR・ROIC目標
    • 先端パッケージング/パワー半導体へのCapex・R&D配分
  • 乗り降りの一般的なタイミング感
    • 「テーマとして認知され始めたが、業績への寄与はまだこれから」の早期〜中期
    • バリュエーション(PER・PSR)が過去レンジと比べて明らかに過熱していないかをチェック

8-3. 長期インカム+成長派(5〜10年)

  • 狙うゾーン
    • 安定的なキャッシュフローと配当を持つ材料系
    • 産業・車載比率が高く、景気敏感度がややマイルドなデバイス
    • 後工程や保守・サービス収入が厚いビジネス
  • KPIの例
    • 営業利益率・ROE・ROICの一貫性
    • フリーキャッシュフロー(FCF)と配当性向
    • 顧客・用途の分散度合い(特定顧客依存が低いか)
    • 設備投資のピークアウト後も安定してキャッシュが出る構造か
  • 乗り降りの一般的なタイミング感
    • 半導体サイクル全体が悲観的なときにコツコツ集める
    • 景気敏感なデバイス株ほど頻繁に売買せず、
      配当と中期成長をじっくり享受するスタイル

9.まとめと「半導体投資家」を目指すチェックリスト

9-1. 記事の要点まとめ

  • 半導体は「頭脳・神経・筋肉」
    • ロジック=頭脳、メモリ=ノート、アナログ=通訳、パワー=電気のバルブ、と役割で捉えると理解が進む。
  • 製造工程は「前工程で作り、後工程で仕上げる」
    • シリコンウエハの上にトランジスタ等を何層も作る前工程と、
      切ってパッケージにしてテストする後工程に分かれ、
      それぞれに装置・材料・サービスのビジネスが存在する。
  • 日本は「装置・材料大国」であり、車載・パワーでも強み
    • 世界の材料シェア約56%、装置シェア約32%と、日本は裏方でかなりの存在感。
    • 車載・産業向けデバイスやパワー半導体も日本勢の得意分野。
  • 2026〜2030年の成長エンジンは「AIデータセンター+自動車+産業」
    • AIサーバー・データセンターと車載半導体が、
      2030年に向けて半導体需要を牽引する見通し。
  • 投資スタイルに合わせて、どのバリューチェーンに重心を置くかを決める
    • 短期:メモリ・サイクル感応度の高い装置
    • 中期:AI・車載・パワーなどテーマ性の強い成長領域
    • 長期:材料・産業向けなど安定CF+配当

9-2. 「半導体投資家」を目指すチェックリスト

最後に、あなた自身の理解度を確認するためのチェックリストです。
○×や△をつけてみてください。

  • 半導体の主な種類と役割を、自分の言葉で説明できるか
    • メモリ=ノート、ロジック=頭脳、アナログ=通訳、パワー=電気のバルブ
      → これを友人や家族に、簡単な例を使って話せそうか?
  • 製造工程の大まかな流れ(前工程/後工程)を説明できるか
    • 「ウエハに何層も回路を作る前工程」と
      「切ってパッケージング&テストする後工程」という構図を、
      ざっくり話せるか?
  • 自分の保有銘柄・注目銘柄が、バリューチェーン上のどこに属するか分かるか
    • デバイス(メモリ/ロジック/パワー)
    • 装置(前工程・後工程・検査)
    • 材料(レジスト・ウエハ・ガス)
      のどれに属し、どのエンド市場(AI・自動車・産業など)に強いのか説明できるか?
  • 成長ドライバー(AI・自動車・産業など)と、自分のポートフォリオの関係を説明できるか
    • 「自分のポートフォリオは、AIデータセンター比率が高い/自動車向け比率が高い」
      といった形で、テーマ別のエクスポージャーを言語化できるか?
  • 指標を見ながら「このビジネスに対してこの株価水準はどうか」を考えられるか
    • 売上CAGR・営業利益率
    • ROE・ROIC(投下資本効率)
    • PER・PBR・PSR(売上倍率)
      をざっくり確認しながら、
      「成長性と収益性を考えると、このバリュエーションは高そう/安そう」
      自分なりの仮説を持てるか?

この記事を読んだだけで、いきなり“半導体プロ”になることはできません。
大事なのは、「自分の言葉で説明できる領域」を少しずつ増やしていくことです。

もし「ここをもっと深掘りしたい」「この銘柄はどの工程?」などあれば、
そこから先は個別テーマ記事として、一緒に掘り下げていきましょう。