『投資家心理』について

投資家心理

投資において一番大切なものは、投資家心理(メンタル)であると確信しています。
テクニカル分析を重視する方も多いですが、その必要性はごくごくわずかと考えています。
いずれ、テクニカル分析にも言及するつもりです。

仕事、家庭、私生活のあらゆる感情、特に怒り、焦り、苛立ち、妬み、嫉みなどの負の感情が、投資判断に悪い影響を与えます。

日々歪み続けるメンタルの状態を、ニュートラルに保つためには、自動車などと同様にメンテナンスが必要です。
今回は、投資家心理について探求します。

投資家心理テスト

これから1つの質問をして、投資家心理をテストをします。一種の思考実験です。
これは私自身に向けた質問ではありますが、用意した選択肢の中からご自分の場合、いずれを選択するか試してみてください。
質問内容のシミュレーションにおいて、ご自分の状況として捉えることが難しい場合、その状態に陥った友人にアドバイスする立場になってみてください。
※シミュレーションの内容は、フィクションです。

シミュレーション

2024年1月。新しい投資枠組み「新NISA」のスタートは、世間に投資の新しい扉を開いた。
増税や老後資金問題といった暗い影が漂う中、この制度は人々に希望の光をもたらした。
投資初心者の私は、投資先に何を選び取るべきか悩んでいた。
解決の糸口を求め、暇さえあれば情報収集に没頭していた。
そしてある夜、動画サイトの再生画面に現れたのは、有名インフルエンサー「A」の動画だった。

彼の声は落ち着き、言葉には説得力があった。
フォロワー数100万人を超える彼のSNSは、多くの投資家に信頼されている証だ。
そして、彼が示したのは米国インデックスへの投資という明快な答えであり、根拠は理路整然としていた。
・過去20年、年平均7%以上の成長率があること
・米国企業が世界的に優位性があること(ITサービスプラットフォームや製品が世界的に支持されている)
・彼自身が実績を誇る投資家であること

私は思い切って、Aのアドバイスに従うことにした。
米国インデックスに資金を注ぎ込む決意を固めた瞬間、自分が一歩前進したような感覚があった。
ある日、投資仲間の友人Bから相談を受けた。
「新NISAで何に投資すればいいと思う?」という問いに、私は迷うことなくAのアドバイスを伝えた。
「米国インデックスだよ。信頼性の高い成長を見込める。」
彼もまた私の言葉に納得し、同じ道を選ぶことになった。
お互いに進むべき方向が一致し、私たちは未来への期待に胸を膨らませた。

203X年X月。金融市場を揺るがす冷たい風が吹き荒れた。
米国での生産過剰や過剰投資、そして過熱した投機活動が、ついに膨れ上がったバブルを破裂させたのだ。
ニュース番組は繰り返し、「史上最悪の暴落」と報じた。
株価は、かつての栄光を嘲笑うかのように底を突き、その混乱は瞬く間に世界へと波及した。

私の投資信託の画面は、赤い数字で埋め尽くされていた。
積み立ててきた資産は、ピーク時の半分にまで減少。
これまでの努力が、一瞬で砂のように崩れていく感覚に襲われた。
最初の動揺を乗り越えようと、冷静を装ったものの、胸に押し寄せる後悔と不安は消えなかった。

その不安の波は、友人Bとの間にも及んだ。
彼の資産もまた、私と同じように激減していたのだ。
そして彼は、こう告げた。
「君の勧めを信じたから、僕の資産もなくなったんだ。」
彼の声には怒りと悲しみが混じり合い、私を責めた。

質問内容

あなたはこの状況でどのように考えますか?
以下の主人公の思考・行動から最も近いものを選んでください。

選択肢1

市場の暴落と、大きな損失を前に「インフルエンサーAの見立ては不完全であり、アドバイスを信じすぎたのではないか」と振り返る。
友人Bには一言謝りつつも「投資は自己責任だろ」と諭す。
Bの私に対する失望を受け止めきれないが、私自身もダメージを負っているのだ。
資産の減少は痛手だが、それでも積み立てを続けることを決意する。

選択肢2

「インフルエンサーAの見立ては悪くなかった。実体経済の急速な悪化により、株価が下がるのは当然のことだ」と振り返る。
次に進むためには、冷静に状況を見極める必要がある。
友人Bには「ごめん」と一言伝えた。
資産を守るため、積み立てペースを一時的に見直すことを決めた。
今度はもっと慎重に歩んでいくつもりだ。

選択肢3

大きな損失を前に「投資に絶対はないと」改めて知った。
友人Bには率直に謝りつつ、「お互いにもう少し深く考えるべきだった」と反省を共有した。
損失は予想を超えた出来事だが、積み立ては最初に決めたシナリオ通りに続けよう。

考察

選択肢は3つ提示しましたが、本来は100人いれば100通りの答えがあると思います。
リアリティを持たせたため似通った選択肢であると思われたかも知れませんが、細部のニュアンスが異なります。
限られた選択肢を通して、投資家にとって望ましい心理状態を考察してみます。

「責任転嫁の心理」について

投資において、最頻出する言葉は「自己責任」です。
よく耳にしていながら、その通りに行動することが難しいのが世の常です。
今回のシナリオにおいても同様に責任は自分自身のみにあります。

選択肢1の「責任について」

「インフルエンサーAの見立てが不完全」と評価しており、責任の一部を転嫁するニュアンスが含まれています。
見立て、つまり将来のことについて「完全」に見通すことはそもそも不可能です。
見立ての完全性の有無とは関係なく、最終的に投資すると判断したのは、主人公自身です。

選択肢2の「責任について」

「実体経済の急速な悪化により、株価が下がるのは当然のことだ」と考えるのは、現実世界でもよくあることです。
しかし、実体経済の悪化に、責任の一部を転嫁するニュアンスが含まれています。
現実においても、株価の下落・暴落を煽るニュースは後を絶ちません。
そういったニュースは人の目を引き、プレビュー数を稼ぐことができるためです。

株価が売られた場合、その反対に買った人がいます。
当たり前のことですが、売買は必ず一対になります。
売られた側だけの情報にフォーカスせず、買った側の人が、なぜ買ったのかについても考察してみましょう。
また、全てのニュースは、常に偏向性を帯びていると認識する必要があります。
この認識は、投資家においてとても大事なことです。

選択肢3の「責任について」

インフルエンサーA、実体経済へ責任転嫁する言葉はありません。
大きな損失を受けながらも、自らの投資判断を反省していると見受けられます。
投資家として見習いたい姿勢です。
「投資に絶対はない」もよく耳にする言葉です。
投資の世界には、計算では割り切れない不確実性が存在します。
過去のデータは未来を保証するものではありません。
確率の低いシナリオに遭遇したときも冷静でありたいものです。

友人Bの責任について

他人のアドバイスに従って投資判断した点において、主人公と友人Bは同様の立場にあると考えられます。
友人Bは主人公を責めていますが、その点は投資家として未熟と言えます。
新NISAが始まり、SNS、ニュース、著名な投資家の本や記事などを情報源にして、友人に投資を勧める機会は増えたと思います。
主人公の言動は、相場操縦を意図したものではなく、悪意・害意がないため、法的責任はないと思われます。
しかし、「自己責任」の理解が不十分である友人Bを、安易に投資に誘導してしまった点について、道義的責任があるかもしれません。
投資の最終判断は自分自身が下すものであり、情報提供者の影響は、その判断プロセスの一部に過ぎないことをお互いに理解する必要があります。

「確証バイアス」について

「確証バイアス」も投資の世界ではよく耳にする言葉です。
「確証バイアス」とは、自分の信念や仮説を支持する情報を優先的に集めたり、解釈したりする心理的な傾向を指します。
このバイアスの影響で、既存の信念に反する情報を無視したり、軽視したりすることがあります。
今回のシナリオにおいては、投資のリスクを軽視しています。
インデックス投資の安全性が高いと一般的に言われていますが、盲信しないことが大事です。
そもそもなぜ安全と言われているのか、自ら調べる必要があります。
例えば、そのインデックスに組み入れされる企業の条件は知っておくべきです。
インデックス投資では、S&P500、オール・カントリーが人気を博していますが、組み入れ条件はご存じでしょうか?
SNSフォロワー数が100万人以上いても、無条件に信頼できるものではありません。
全ての情報について、疑って掛かる姿勢を持つくらいで丁度良いのかも知れません。

「自己効力感」について

「自己効力感」とは、ある状況における行動において、「自分ならできる」と考えることです。
投資判断において、自己効力は必要不可欠です。
自己効力感が不十分であると、先に触れた「責任転嫁の心理」の芽が育ち、他責思考に陥ります。

積み立て投資の強さは、暴落時に同じ金額で通常時よりも多くの口数を購入できることにあり、将来の値上がりが期待できます。
積み立て開始当初、その強みは理解しているはずであり、方針を変えずに活かしたい。
選択肢2は、一見冷静に見えてその方針が貫けていません。
損失は予想を超えた出来事ですが、未来は見通すことができないと認識し、当初の方針を貫きたいところです。

その他

今回は、「責任転嫁」、「確証バイアス」、「自己効力感」にフォーカスしましたが、テーマになるものは他にも多くあります。
例えば、以下のようなものです。またどこかの機会で触れることがあるかもしれません。
・ 批判や失敗への恐れ
・ 認知的不協和
・ 社会的証明の過信
・ 集団思考の影響

投資家心理を学び磨き続け、投資家としての成長を実感するとき、投資に限らず人としての成長も実感します。
あらゆる情報を疑って掛かる姿勢を持つことは、少しやりすぎかもしれません。
しかし、冷静に立ち回るメンタルが強化される側面もあるでしょう。
投資の哲学は、人生の哲学に通ずるところがあると感じます。

『ゾーン 最終章』

私がメンタルをニュートラルに保つために、繰り返し読む本があります。
それは相場心理学のバイブル的著書である『ゾーン 最終章』です。
本の各所に、読者に向けた投資家心理に関する質問があります。
しかし、その問いに対する答えの記載はどこにもありません。
自分自身で答えを導き出す必要があります。
その答えを元に、現在の自分が市場をどのように見ているかを分析することができます。
本の詳細は、また別の機会に紹介しますが、投資家心理にご興味がある方は、是非一読ください。
読み返す度に、投資家としての成長を実感できる稀有な一冊と言えます。